 
                吸い物の美学
吸い物というひとつのお椀の中には、和食の基礎「五味、五色、五方」が活かされています。
「五味、五色、五方」とは、料理において味、色、調理法のバランスを重視する考え方です。
この吸い物は4つの要素をうまく調和させて作られています。
どのようにして吸い物が構成されているのかを知ると、和食の奥深さや楽しさが感じられるようになりますよ。
吸い物の構成
一般的に吸い物とは出汁に塩やしょうゆで味付けし、煮たてたすまし汁のことです。
吸い物には「椀種、椀妻、吸い口、吸い地」という4つの要素が合わさって構成されています。
吸い物の構成要素
椀種、椀妻、吸い口、この3つの要素には、旬を取り入れながら彩や味のバランスを考えて組み合わせます。
それぞれ旬の食材を使うことで、多彩な季節感を楽しむことができますよ。

椀種(わんだね):主となる具材。
魚介類、鶏肉、豆腐や湯葉、練り物のしんじょなどを指します。
なるべく旬の食材を使います。
椀妻(わんづま): 別名「あしらい」。
椀種と相性の良い野菜、きのこ、海藻類などを指します。
こちらも、なるべく旬の食材を使います。
吸い口(すいくち):吸い物の香りを楽しむための重要な仕上げの存在。
木の芽、三つ葉、みょうが、柚子の皮など、季節を感じるものを使います。
吸い地(すいじ):基本的に吸い物に使われる出汁は、昆布と鰹節の「一番だし」。
これに塩やしょうゆで味付けしたものを指します。
吸い物は、シンプルな味付けだけに、吸い地である出汁のおいしさがポイントになるので、出汁は丁寧に引いたものを用意しましょう。
ちょっと豆知識
お店で出される吸い物は蓋をしていることが多いですが、蓋をしているのも、ちゃんとした理由があります。
それは、最後に添える吸い口の香りを中に広げる為。
また、みょうがや柚子の皮などの香りが強い吸い口は、サッと水にさらすことで、アクが抜け、香りもやさしくなりますよ。

旬の食材を組み合わせることが理想ですが、スーパーでは年中流通している食材も増えました。
吸い口に旬の香りを添えてみるだけでも季節感を楽しめますよ。
春夏秋冬で選ぶ、おすすめの具材
吸い物は食材の組み合わせによって季節感や味の調和を無数に楽しむことができます。

軽やかで心地良い仕上がりになる食材で、春のやさしい風を感じられます。
- 椀種:あさり、はまぐり、鯛
- 椀妻:菜の花、筍、わかめ、絹さや、ウド
- 吸い口:三つ葉、木の芽

すっきりとした香りの吸い口で、爽やかな旨味が広がります。
- 椀種:豆腐、湯葉、鱧、穴子、エビ
- 椀妻:インゲン豆、かぼちゃ、枝豆、とうもろこし
- 吸い口:青柚子、花山椒、実山椒

深まる季節に、心と体をほっと癒す一杯に。旬の食材で豊かな旨味を引き出します。
- 椀種:鮭、玉子豆腐、鶏肉
- 椀妻:菊菜、しいたけ、しめじ、にんじん
- 吸い口:柚子、しょうが

旬の食材の風味を活かしながら、じんわりと染み渡る旨味と香りで、心も体も包み込むような味わいに。
- 椀種:鱈、カニ、カニカマ、牡蠣、鴨肉、鶏肉
- 椀妻:ほうれん草、チンゲン菜、水菜、大根、にんじん、白菜
- 吸い口:柚子、しょうが
変わり種もちょっと紹介
- 椀種:ベーコン、厚揚げ
- 椀妻:カリフラワー、ブロッコリー、レタス
- 吸い口:粗挽き黒こしょう、七味
例の通りの組み合わせでなくても、工夫やアイデアで気軽に楽しんでみてくださいね。


